「このミステリーがすごい!」大賞受賞作品2022年
改題前、受賞時のタイトルは「物語は紫煙の彼方に」。
どちらのタイトルも読み終えてストンと落ちます。
何といっても、伏せんのはり方が素晴らしい。読み終えてから第一章の描写の意味がわかる。もう一度読み返すと違ったとらえ方ができる。
楓は自分が持ち込む謎にまず自分なりの「物語を紡ぐ」。祖父はフランスの煙草ゴロワーズを吞みながら、孫が考えた物語の矛盾点や自分の考察を交えながら謎を解いてしまう。
その時のキラキラした祖父の目の輝きが楓は好きなのだ。この切れ者の祖父に対する誇らしさ、同時に祖父の病気を完全には受け止めきれないもどかしさ。
祖父との限りある時間を大切に・・・切ないくらいの敬愛がタイトルの一言に込められている気がします。
認知症に視点をあてた作品
- アルツハイマー型認知症
- 血管性認知症
- レビー小体型認知症(DLB)
楓の祖父は認知症患者の約10%を占める、レビー小体型認知症を患っている。
作中では幻視や幻聴といった症状が丁寧に描かれている。中でも私が驚いたのは、自分が病気で幻視や幻聴を見ていると自覚している患者も多いということ。
楓の祖父もそのパターン。以前見た幻視の楓は無表情だった。だから、くるくる変わる楓の表情は、目の前の楓が実在していると確信できる材料なんですね。
物語をつなぐ「たんぽぽ娘」
小学校の卒業式に祖父からプレゼントされたのも、新しく楓が出会う青年からプレゼントされるのも
ロバート・F・ヤングの「たんぽぽ娘」。
ビブリア古書堂の事件手帖でも取り上げられた作品で、私も読んだ。描写が綺麗なタイムトラベル&ラブストーリー。短編なので読みやすいですが、真実を知ったときちょっぴり切なくなります。
「名探偵のままでいて」、「たんぽぽ娘」、どちらから読んでも相互に味わえそう。
物語の最後、楓と祖父にとって1番の難事件は・・・。
ぜひ本編を読んでみて欲しいです(^^♪
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